病院からの説明資料(2000.03.02)


病状の説明

【診断】

MDS(myelodysplastic syndrome: 骨髄異形成症候群)という疾患群の内, JMML(juvenile myelomonocytic leukemia)というタイプのものです.この呼び方は1998年に国際的に統一されましたが,それ以前は,JCML(juvenile chronic myelocytic leukemia:若年型慢性骨髄性白血病)と呼ばれていたものに相当します.なお,MDSという疾患概念はもちろん成人にもあります.白血病やMDSという疾患は,多様な病態の総称ですので,FAB分類という規則に従い,subtypeに分類されていますが,その規則によれば,MDSは5つの亜系に分類され,JMMLはCMMoLに相当するものです.

【症状・検査所見】

  1. 点状出血斑:血小板数の低下.
    血小板数の低下を呈する疾患でもっともpopularなものとしては,特発性血小板減少性紫斑病ITPという病気があります.ITPでは,血液中のPAIgGという抗体が上昇しています.友紀野ちゃんも,PAIgGが上昇していました.その点は,ITPと類似しています.骨髄検査では,ITPの場合には巨核球という血小板産生細胞が増加していて,末梢血中でその血小板が破壊されるという機序がありますが,友紀野ちゃんの場合,その骨髄巨核球が殆ど認められませんでした.さらに,脾臓腫大も著明であり,僅かに産生された巨核球が,脾臓に捕捉されて破壊されているものと考えられます.
  2. 著明な肝脾腫.
  3. 顔面の皮疹.
  4. 白血球数の増加:単球成分の著明な増加.
  5. HbF 15%と上昇.
  6. NAP(好中球アルカリホスファターゼ)の低下.
  7. 骨髄中異型細胞4%.
  8. フィラデルフィア(Ph1)染色体(t(9;22)(q34;q11.2))陰性.BCR-ABL融合遺伝子はFISH法及びRT-PCR法,何れの検査法でも検出しませんでした.
  9. 血清ビタミンB12の正常域より上昇しています(血清葉酸値は正常).
  10. spontaneous colony形成能は無血清培地ではコロニーが観察されないものの,有血清培地でのコロニー形成能は異常増殖を認め,更に,complete mediumでは,通常末梢血の培養では殆ど見られない赤芽球系のコロニー形成能が見られて明らかに異常です.

【入院後の経過】

  1. 肝脾腫増大傾向.
  2. 白血球数増加(最大17000/μL:1/24)・単球の増加(最大10260/μL:60%:2/29)→6MP(ロイケリン)50mg/ m2(1/24〜2/3, 2/29〜3/1) にてコントロールしています.本日から中止しています.
  3. 血小板数著明な低下(2-14-16頃,血小板数5000/μL以下を低迷.脾機能亢進による)→PAIgG高値を鑑み,γ-gl 200mg/kgを3連日投与するも無効.Pred2mg/kg(2/16開始)にてコントロールしています.
  4. 血球貪食症候群の様相:
    1. 肝脾腫増大
    2. 骨髄に血球貪食像
    3. 血小板・白血球減少
    4. 可溶性IL2Rの上昇(7510IU/mL:2/16)
    5. フィブリノーゲン低値(57mg/dL:2/23)
    6. NK細胞活性6% (18-24) etc.
  5. 末梢血単球の性格として,G-CSF receptorを100%表出,単球60%以上に対して好中球は出現しても数%以内→細菌感染対策としてG-CSF(ノイアップ)を連日投与します.

【治療方針】

  1. 白血球増加時の治療として6MP(+Ara-C:キロサイド).
  2. 著明な脾腫の場合には,脾臓摘出.脾臓摘出と病勢・予後には直接関与しないが,著明な脾腫の場合,脾臓摘出は必要なことがあります.(下記)
  3. 根治療法として同種造血幹細胞移植が不可欠です.

【脾臓摘出術】

  1. 日程:2000年3月3日(金)13:00〜
    1. 脾臓摘出術
    2. 肝生検術
    3. IVHカテーテル挿入術(ヒックマンカテーテル7Fr).
      臍帯血移植の時には,点滴及び採血に必須です.2本のルートが組になったものを用います.外頚静脈に挿入します.
  2. 脾臓摘出術の意義:著明な脾腫は,血小板消費の亢進やその他網内系の亢進による貪食能の亢進を来たすため,これらの症状を緩和し,特に血小板低下速度を和らげることが期待されます.また著明な脾腫は物理的破裂の危険があるため,それを避ける意味もあります.更に臍帯血移植では血小板回復に時間がかかるため,その間,血小板の低下が致命的になりうるので少しでもそのような不安要因を除去する必要があります.

【臍帯血移植予定】

  1. ドナー候補:家族内にHLA適合ドナーは見いだせませんでした.この場合,骨髄バンクなどの非血縁ドナーを捜すことになります.しかし,非血縁者間骨髄移植(いわゆる骨髄バンクドナーからの骨髄移植)は6ヶ月以上と時間がかかり現在の病状の進行度では非現実的と思われます.これに対して,臍帯血移植現在では,臍帯血バンクが各地にそこで,神奈川・東京・近畿・東海・北海道の各臍帯血バンクにドナー検索を行いましたところ,北海道臍帯血バンクのみにのみ見いだしました.血清学的一致度5/6の臍帯血ドナーで,既に申込済みを行っております.臍帯血移植では,骨髄移植の場合とは異なり,HLAの適合度は非血縁者間でも5/6程度の一致までは許容されます.
    A B DR
    本人 2/26 48/61 2/6
    ドナー 2/26 48/39 2/6
  2. 細胞数7.56×107/kg(十分量です.)
  3. 移植前処置は,non-TBI regimenの方向.

【グループスタディ】

非常に珍しい疾患のため,一人の医師が単独で診断や治療を決めるわけにはまいりません.このため,この疾患の全国的組織である「日本小児MDS治療研究会」に登録に登録し,最新の情報に基づき,また他の患者さんの具体的な経過を参考にしながら,現時点での標準的かつ最新の診断及び治療を進めてまいります.このため,他の患者さんのために,友紀野ちゃんの病状を研究会に報告したり,場合によっては研究会協力施設に検体をお送りして特殊な検査や研究段階の検査を依頼することがありますのでよろしくご協力のほどお願いします.


友紀野のタンポポ畑
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